控訴審準備書面(2)
保険法2条では、当事者の一方が一定の事由が生じたことを条件として財産上の給付を行うことを約し、相手方がこれに対して当該一定の事由の発生の可能性に応じたものとして保険料を支払うことを約する契約をいう」とし、財産上の給付は被保険者に行うと定めている。従って、被保険者に対する財産上の給付とは、被保険者が死亡後は遺産となり相続財産となる。
しかし、判決は、保険金請求権が保険金受取人の固有の権利であることを論拠に、死亡保険金が保険金受取人の固有財産であるとして、控訴人に死亡保険金は、相続財産であるという主張を退けた。
高等裁判所が本判決を支持するばらば、保険会社が行う財産上の給付の対象者である被保険者に保険金受取人が入る論拠を示す責任があるだろう。
以下、保険法2条の2の被保険者に対して行われる財産上の給付を論拠に、本判決が、民法においても保険法においても違法判決であることを論じる
1 相続とは
相続とは、人が死亡時に所有していた財産を第三者が承継する手続きをいう。
民法 第896条
相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。
従って、死亡した人の銀行口座や不動産などの債権は名義変更などの手続きによって財産が譲渡される。相続とは死亡した人の財産(遺産)を承継する手続きである。
2 譲渡人が死亡した場合に譲渡人の合意を証明するものは、第960条で遺言のみである
債権の譲渡は、債権の譲渡人と譲受人との間の合意があれば成立する(民法第466条)が、譲渡人が死亡した場合、譲渡人の合意を証明するものは、第960条で遺言のみと定められている。また、死亡した譲渡人の合意が証明できなければ、民法の法定相続に準拠した相続の手続きを経て相続人の固有財産となる。
民法967条は「遺言は、自筆証書、公正証書又は秘密証書によってしなければならない。ただし、特別の方式によることを許す場合は、この限りでない。」と遺言の書式を規定している。
3 保険者が支払う財産上の給付は被保険者に行われる
保険法では2条の1で保険の定義を、当事者の一方が一定の事由が生じたことを条件として財産上の給付を行うことを約し、相手方がこれに対して当該一定の事由の発生の可能性に応じたものとして保険料を支払うことを約する契約をいうと定めている。
そして、2と3で、財産上の給付を行う当事者として「保険者」を定め、保険料を支払う当事者として保険契約者を定めている。
さらに、4では、被保険者を定めていて、生命保険の場合は、「その者の生存又は死亡に関し保険者が保険給付を行うこととなる者」と定めている。
5では、保険給付を受ける者として保険金受取人を定めている。
本件の死亡保険金の場合、被保険者に対して生命保険会社が財産上の給付を行い、その請求権を保険金受取人とすることを定めている。
被保険者に行われる財産上の給付は被保険者の財産であり、被保険者が死亡した時点で相続財産である。
4 請求権の行使で形成される財産は相続ではない
その相続財産の請求権を保険法では保険金受取人に与えている。つまり、保険金請求権は保険金受取人の固有の権利といわれるものだ。
保険者の給付する保険金が保険金受取人の固有財産とすれば、保険金受取人が請求権を行使して固有財産権を主張するのは問題はない。
しかし、保険法では2条の4のロでは、保険者が支払う財産上の給付は被保険者に対するものであり、保険金受取人は保険給付を受ける者とされているのみである。
5 死亡保険金は被保険者の遺産であり相続財産である
実務的に考えれば、死亡した時点で被保険者の口座は閉鎖されるから、保険者は財産上の給付ができない。また、被保険者が死亡した時点で、保険契約が遺言規定に準拠していないから死亡保険金は債権として成立せずに保険金受取人に譲渡できない。
この理由で、保険金請求権として、被保険者に対する財産上の給付を保険金受取人に受けてもらうと考えるべきであろう。近年、生命保険会社が死亡保険金の受取人を法定相続の範囲での親族としているのは、死亡保険金は相続財産であると認識しているからであろう。
このように考えれば、控訴人が代表受取人として保険金請求権を行使して固有財産にした後に、相続財産を宣言し、その分配や譲渡である相続手続きを民法の規定に求めるのは間違っていない。
控訴人は、死亡保険金は相続財産であり、その分配や譲渡を規定するのは民法の規定に準拠することを主張し、かつ、遺言規定を満たしていない生命保険契約を有効とする判決は違法判決だと主張している。
高等裁判所が本判決を支持するならば、保険者が保険金受取人に財産上の給付をしていると法的論拠を明示する必要がある。
また、保険金受取人に対する財産上の給付であれば、相続税の対象とならなくなると思われるので、相続税との整合性も合わせて論拠を明示していただきたい。