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控 訴 の 理 由

1 死亡保険契約は生前契約としての遺言の要件を満たさない
2 保険金請求権は、死亡保険金の所有権を意味するものではない
3 本判決は民法903条を無視した違法判決である

1 生命保険契約は、生前契約としての遺言の要件を満たさない

当該死亡保険金は、控訴人と被控訴人の母橋本喜美枝が受取人を控訴人(60パーセント)及び被控訴人(40パーセント)として保険契約を締結させているが、保険金請求権は代表受取人である控訴人となっている。

判決では、被控訴人の生命保険契約の40パーセントの保険金請求権の被控訴人の固有の権利を認めているが、当該保険の保険金請求権者は、代表受取人の控訴人一人である。現実として、保険法の従い本件の死亡保険金は控訴人の固有財産となっている。

この保険金請求権は代表受取人に与えられており、受け取りの割合の応じて個別に請求できる権利ではない。本件の場合、控訴人に振り込まれた死亡保険金を分割する根拠を生命保険契約の求めることは、生命保険契約が遺言としての効力を持つことを意味する。

控訴人の固有財産となった死亡保険金に対して、生命保険契約の分割規定を有効とする本判決は、遺産を分割する契約は民法では民法902条で規定された遺言規定に準拠したものだけである。

従って、生命保険契約の論拠に、保険金請求権者の固有財産となった死亡保険金にたいして、被控訴人に保険金請求権を認める本判決は、違法判決である。

2 保険金請求権は、死亡保険金の所有権を意味するものではない

判決では、大審院昭和11年5月13日判決15を引用して、「当該保険金請求権は指定された者の固有財産に属し、契約者の相続財産を構成しないと」死亡保険金を遺産(相続財産)としないと結論している。

保険金請求権は、保険契約者の財産から承継的に取得するものではなく、原始的に取得する自己固有の権利であることは控訴人も認識していて異議はない。

しかし、保険金請求権は保険金の支払いを請求する権利であり保険金の所有権と同じではない。支払われる前の保険金は被保険者の所有である。保険金請求権の権利と、死亡保険金の所有権と違いを明確に分けて論じなければならない。

被保険者が死亡することによって発生する死亡保険金の所有権は、保険金請求権が行使されるまでは、被保険者の所有財産である。保険金請求者の固有財産となるのは、保険金請求権の行使の後である。よって、死亡保険金は、被保険者が死亡した時点で遺産となり相続財産とならざるを得ない。

大審院昭和11年5月13日判決で死亡保険金を遺産としないのは、民法の手続きを経ずに、保険法によって死亡保険金の所有権が、保険金請求権の行使により個人の固有財産と移管したことを前提とする判決であり、死亡保険金の所有権が、保険金請求権の権利者の所有権となることを意味するものでない。

本判決では、死亡保険金の所有権は、被保険者の死亡と同時に保険請求権者がその権利を行使した後に保険請求権者の固有財産になるとう時系列的な手続きの流れを考える考えることができずに、被保険者の死亡と同時にその所有権が保険請求権の所有になるという本判決の主張を、大審院昭和11年5月13日判決の引用だけで結論するのは暴力と言わざるをえない。

3 本判決は民法903条を無視した違法判決である

控訴人は、答弁書の主張の2で、「現在、本件の死亡保険金は代表受取人の被告の固有財産となっているが、この死亡保険金は被保険者が保険料を支払っていたものであり相続財産である」と宣言し、この死亡保険金の分割を民法の遺言規定に従い支払うことを一貫して主張している。

死亡保険金は遺産である。そして、遺産を分割する規定は民法の遺言規定に準拠しなければならない。生命保険契約は遺言規定に準拠していない。

その生命保険契約を論拠に、控訴人の固有財産となった死亡保険金に対して保険金請求件を認める判決は、民法903条を無視した違法判決である。

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