1 判決の主旨
本判決では、争点を「本件各死亡保険金は受取人の固有財産であるか」として、「生命保険の契約者が、その相続人の指名を表示して死亡保険金の受取人とした場合、契約者の相続財産を構成しないと解される」と結論して、生命保険契約に従って、被控訴人の40%の保険金の請求を認めた。
控訴人は、死亡保険金は遺産であり相続財産であるから、この分割は生命保険契約ではなく民法の規定に準ずるべきであると一貫して主張していたが、判決では、「死亡保険金は契約者の相続財産を構成しない」として、生命保険契約の有効性を認めた判決を出した。
判決では、「生命保険の契約者が、その相続人の指名を表示して」とし相続財産であるとしながら、その相続人である被控訴人の保険金請求権を固有の権利とし、かつ40%の保険金は被控訴人の固有財産であると結論し、控訴人に対する不当利得を認めているのである。
2 被控訴人は不当利得の行為をしていない
判決では、生命保険契約に記載された被控訴人の40%の受取分を、保険金請求権として固有の権利として認めたが、保険金受取人の代表者選任届(甲一号証には、その分割の割合いを明記していないばかりか、「本請求において後日利害関係者からの申し出があった場合は、下記に著名した全員が連携して責任を負い、朝日生命保険会社に対し一切ご迷惑をかけません」という但し書きが記されている。
判決で、「生命保険の契約者が、その相続人の指名を表示して」と死亡保険金を相続の対象としていながら、相続財産を構成しないとして分割を規定した生命保険契約の有効性を認め控訴人の不当利得を断定しているが、当該保険金は、控訴人が代表受取人として請求をしていて、保険法による保険金請求権に違法性はない。
3 本判決は、保険法及び民法を無視する違法判決である
控訴人は代表受取人として保険金を固有財産とした後に、相続財産を宣言して、その分割の論を民法の遺言規定に求めた。
判決は、死亡保険金は、保険金受取人の固有財産であるとして、生命保険契約書に記載された被控訴人受取に割合(40%)を固有財産である保険金請求権として認めているが、当該保険金の請求権は、代表受取人である控訴人が行使していて被控訴人には存在しない。
かつ、生命保険契約の当事者である被保険者は死亡していてこの生命保険契約は生前契約となり、民法の遺言規定を満たしていない生命保険契約は無効である。
判決は、保険法で定められている保険金請求権を拡大解釈して、かつ民法の遺言規定を無視して、生前契約である生命保険契約の有効を認めた。これは、明らかに、保険法及び民法を無視する違法判決である。
4 保険者が支払う財産上の給付の相手先はだれなのか?
大審院昭和11年5月13日判決は、保険金請求権は保険金受取人の固有の権利としているが、支払われる保険金を保険金受取人の固有の財産とはいっていない。
本判決では、明確に「当該保険金請求権は指定された者の固有財産に属し」としていて、請求権と固有財産を同義語のように扱う文脈には首を傾げるが、素直に読み取れば、請求する債権の所有権は保険金受取人にあるということなのだろう。
だから、判決では、保険金請求権は保険金受取人の固有の権利であり、かつ給付される保険金は保険金受取人の固有財産であるから、生前契約の無効を主張する控訴人の主張を退け、保険契約書の有効を認めていると考えられる。
確かに、死亡保険金が、保険金受取人に支払われる「財産上の給付である」債権であるならば、死亡保険金は保険金受取人の固有財産となり保険契約は有効となる。
保険法の2条の1では、「保険契約を「当事者の一方が一定の事由が生じたことを条件として財産上の給付を行うことを約し、相手方がこれに対して当該一定の事由の発生の可能性に応じたものとして保険料を支払うことを約する契約をいう」と定めている。そして、2条の5では生命保険契約又は傷害疾病定額保険契約では保険給付を受ける者として保険金受取人を定めるとしている。
判決に従って解釈すれば、当事者とは保険契約者、被保険者、そして保険金受取人と、保険金を支払う保険者とするのだろう。
このように考えれば、判決では、被保険者に一定の事由が生じたときに、保険金受取人に保険給付するのであるから、死亡保険金は保険金受取人の固有財産であるという判決も妥当ということになるだろう。
5 死亡保険金は被保険者に給付される財産上の給付である
しかし、保険法の2条の4では被保険者の定義を定めていて、ロで、「生命保険契約 その者の生存又は死亡に関し保険者が保険給付を行うこととなる者」と定めていている。つまり、保険者が保険給付を行う対象者は被保険者と定めていて保険金受取人は関係がない。
保険金受取人保険金請求権は固有の権利であるけれども、保険者が支払う財産上の給付は被保険者に支払われるものであり、被保険者が死亡した時点で被保険者の相続財産となる。この理由で相続税法では死亡保険金は相続の対象となるのである。
保険者が支払らう死亡保険金は、保険法の財産上の給付として被保険者に支払われるのであり相続の対象の遺産であり財産である。
6相続税と民法での死亡保険金の取扱いが違う理由
保険者が支払う財産上の給付は被保険者に支払われるものであり、被保険者が死亡した時点で被保険者の相続財産となる。この理由で相続税法では死亡保険金は相続の対象となるのである。
これに対して、民法では、死亡した被保険者は物理的に請求するこができないから、保険金受取人を決めているのであり、保険金請求権は保険金受取人の固有の権利として存在する。
本来、遺産を分割・譲渡するには民法の規定に準拠しなければならないが、死亡保険金は民法の規定に従わずとも、保険法によって、保険金請求権の行使により保険金受取人の固有財産に移管される。この理由で、固有財産となった死亡保険金は、民法の相続財産の構成にはいらないと考えるべきである。
相続とは、民法の財産の分割・譲渡の手続きの規定であり、手続きにより日保険者の財産が相続人や遺贈者の固有財産となることをいうのであり、請求権で形成される固有財産ではない。
大審院昭和11年5月13日判決は、保険金請求権は保険金受取人の固有の権利としているが、支払われる保険金を保険金受取人の財産とはいっていないのはこの理由である。
7 死亡保険金は被保険者の財産であり遺産となる以上相続財産といわざるを得ない
民法上、相続財産として構成されないのは、民法に準拠した分配・譲渡を経ずに、保険金請求権のみで保険金受取に振り込まれ固有財産となるからである。
しかし、死亡保険金は保険者が被保険者に支払う財産上の給付という債権であり、被保険者の遺産であり相続財産以外のなにものでもない。
本件では、控訴人は一貫して、被保険者の死亡保険金は代表受取人である控訴人の固有財産となっているが、相続財産であると宣言していて、その分配・譲渡の根拠を民法に求めている。
判決は、死亡保険金を保険金受取人の固有財産とし、その分配・譲渡を生命保険契約に準拠するように命じているが、保険法では、死亡保険金は被保険者に支払う財産上の給付であると明記されていて、死亡保険金は被保険者に対する財産上の給付であり遺産であることは明白である。従って、死亡保険金を保険金受取人の固有財産とする本判決は。保険法に反する違法判決である。
また、生命保険契約が、当事者の死亡後も有効な契約とする判決も、民法では、生前契約は民法の遺言規定で厳しく規定されていて、生命保険契約は遺言として成立していないことは明白であり、被保険者が死亡後の生命保険契約の有効性を認める判決は、民法の遺言規定を無視する違法判決以外の何ものでもない。