第二章 時代が加速している21世紀
(1) 金融システムを頂点とする経済は社会主義経済
経済活動の目的は消費にあります。基本的には、人間は、生命を維持するために食べるという消費を行い、その消費行動に付随する道具や、設備を作り出し、それを分業することで、「物資の生産・流通・交換・分配とその消費・蓄積の全過程、およびその中で営まれる社会的諸関係の総体」である経済が生まれました。
産業革命以降、人間は動力を手に入れました。そして、機械化による生産力の向上と技術の進歩は、消費の多様化を急速に進展させました。また、経済の矛盾を解決する手段としての戦争は、兵器や兵士を消費するだけではなく、経済を構成する、「社会資本」と「労働力=市民」に壊滅的な打撃を与えるような破壊力を持つようになりました。
消費を求める経済は、第二次世界大戦以降、「財の生産および分配をはじめとする諸経済活動が中央政府の計画機関によって決定される経済体制」とした計画経済と、「個々の経済主体は自由に経済活動を行い、社会全体の財の需要と供給は価格をバロメーターとする市場機構により調節される経済」とする市場経済に別れ、イデオロギーを伴い、それは社会主義経済と資本主義経済の陣容に分かれます。
利潤を求めない計画経済の社会主義国家では、経済活動の原動力である技術の進歩や活力は後退し、生産力は伸びず、利権を求める縦割りの社会は、貧富の差が拡大し、一党独裁の中央政府は、市民を抑えるために、民主主義を封印し専制独裁主義に変貌します。これに対して、利潤を求める市場経済は、テレビの登場で、広告という消費の支配権を手に入れて、経済活動はこの消費の支配権を求めて、生産力の増強と、売上至上主義に走りました。
本来、需要と供給で成立する経済は、「資金」「固定資本」「流動資本」と労働力を使い、生産された物を、「物資の生産・流通・交換・分配とその消費・蓄積の全過程」をとおして消費されて成立するものですが、金融システムが経済の中心に位置することで、資金の移動で利潤が生まれることになりました。資金の移動が利潤を生み出す過程には、「物資の生産・流通・交換・分配とその消費・蓄積の全過程」はありません。つまり、経済の原理原則に一致しない行動様式であり、これは、究極の錬金術でありカジノでしかありません。
ベルリンの壁の崩壊で、専制主義国家であった社会主義国家は、民主主義を望む、市民のパワーで倒されましたが、市場経済の資本主義国家は、経済原理に反する金融システムによって、グローバリゼーションの名のもと、資本を寡占化していき、アメリカを頂点とする資本による中央集権のシステムが確立されました。それは、統制経済であり、民主主義を装った専制主義であり、社会主義体制であります。そして、それを支える強大な軍事力がアメリカ軍でありましょう。
先のジェノバのサミットでは、反グローバリズムの組織が10万人も集まりました。彼らの、抗議行動は、まさしく、先進国による専制主義的な、経済システムに対する抗議であり、アメリカを頂点とする経済専制主義に抗議する反グローバリズムの組織に対して、欧州各国が、対話に前向きであったのは当然でありましょう。ニューヨークの世界貿易センタービルの倒壊は、金融システムを頂点とする中央集権に対する攻撃であり、アメリカという国というよりも、金融市場を中心とする統制経済システムに対する抵抗ではないでしょうか。
事件当時のニューヨークの証券取引所での騒ぎは、アメリカの繁栄が、金融システムという錬金術の経済で成立している証拠であり、現実として、事件後の物流の混乱が引き起こす、実体経済の混乱を収めるのが政府の重要な施策であるはずなのに、エコノミストの眼は証券取引所しか見ていませんでした。
また、経済の鍵はアメリカの消費者の動向にかかっているというエコノミストの意見がメディアを闊歩していますが、これは、世界中から中央集権で吸い上げた資金を消費するだけのアメリカを容認することになります。アメリカのエコノミストが言うのであれば仕方がないと思いますが、日本人のエコノミストが言うに及んでは、開いた口が塞がりません。
統制経済の国家は、ベルリンの壁で証明されたように、そのような社会は民主主義に反しており、市民はその社会を拒絶するでしょう。とすれば、アメリカが自由の名のもとに、金融システムを頂点とし、世界を中央集権で統治する社会は、その経済格差の広がりとともに、民主主義と対立し、強大な軍事力をもってしても、民主主義を望む市民のパワーは抑えられないでしょう。
ベルリンの壁の崩壊の事実は、アメリカを中心とする自由経済の名を借りた統制経済=社会主義経済の存続を認めないということを示すものです。
(2) 帝国主義と覇権主義の違い
「帝国主義」とは、資本の集積と独占体制が整った国家が、植民地政策によって、軍事力で資源と労働力を確保し、戦争による消費を求める行動をいいます。「覇権主義」とは、経済運動による資本の集積と資本の独占体制によって、他国の経済を支配することをいいます。
帝国主義の衝突であった第一次世界大戦後、変動相場制の欧州と、金本位制のアメリカが推し進めた保護貿易主義は、第二次世界大戦を引き起こしました。資本主義経済の成長が帝国主義を超え、貿易保護主義を否定した結果が、この二つの大戦を生み出したのです。
第二次世界大戦後の世界は、社会主義と資本主義のイデオロギーの対立となりましたが、資本主義陣営では、ニクソン・ショックを契機に、金本位制からドル本位制が確立され、資本が国境を越えるグローバリズム経済となり、資本の集積と資本の独占体制によって他国の経済を支配する覇権主義の時代に入りました。
1989年、統制経済が利権を制御できず、また、既得権益を軸とした階級社会が民主主義を否定した社会主義は自己崩壊しました。ベルリンの壁の崩壊です。東西の冷戦構造が壊れ、資本主義社会でのアメリカの一人勝ちを恐れる欧州は、ユーロ構想を立ち上げ、アメリカのドル本位制に対抗を表明します。一方、アメリカは、1985年のプラザ合意で、日本にドル還流システムを構築していて、これに株式を打ち出の小槌としたカジノ経済を、アジア各国に押し付けました。
これは、アジアの旧社会主義国に資本を投下することで、アメリカ企業の資本の集積と独占を拡大し、アジアの輸出をアメリカが一手に引き受けることで、消費大国としてのアメリカを確立するものです。そして、この消費の原資となったのが、実体経済とは乖離した金融市場経済です。従って、金融市場経済=カジノ資本主義経済といわれるのです。
このカジノ資本主義経済とバブルは、アメリカが抱えていた、冷戦時代の双子の赤字を一気に解消しました。しかし、ゲームの盲点をついたヘッジファンドのカラ売りは、1997年に、東南アジアに金融危機を引き起こし、カジノ経済の危険性を露呈しました。これ以降、金融市場を中心に、アメリカは、政府による統制経済の側面が強くなっていきます。
なんとか金融危機の連鎖を食い止めたアメリカは、グローバル経済の名のもと、電気・水道などの他国の社会資本を経済支配することを目論みました。いわゆる規制緩和と民営化です。この規制緩和と民営化とは、社会資本の支配権をアメリカ企業が握ることで、その国の、経済支配を意味するものでしかありませんでした。しかし、幸いにも、2001年のエンロンの倒産で、その計画は頓挫しました
1999年1月1日、ユーロが登場し、世界はブロック経済の時代に入りました。これに対して、覇権主義の負の遺産を抱えるアメリカは、圧倒的な軍事力を背景に、石油の支配権を握り、ドル本位制を維持しようとしています。この軍事行動は、アフガニスタンをスタートに、イラクへ侵攻し、次の狙いはイランです。アメリカは、覇権主義の行き詰まりから、帝国主義に逆戻りしたのです。
(3) ドル本位制から石油本位制へ
2002年1月1日、ヨーロッパの12カ国が新しい単一通貨を採用するユーロが始まりました。基軸通貨であるドルに対抗する通貨です。ユーロがスタートしてから為替市場ではドル安ユーロ高が続いています。これに対して、円など他の通貨に対してはあまり変化していません。ユーロとドルだけが、ある基準で高くなったり安くなったりしているのです。
これは、カスピ海の石油資源を中心に、石油取引の決済をユーロでも認めるようになったからで、世界の産油国がドル建てからユーロ建てに変えられるようになったからです。また、これに連動して、鉱物資源のユーロ建ても進み、ドル安ユーロ高の影響で、原材料費の価格が上がっているのです。つまり、原材料に鉱物性燃料を加えた原燃料が為替の基準となったのです。これは、かつての金本位制の金が石油にかわる、いわゆる石油本位制といえるでしょう。そして、石油本位制の登場は、カジノ資本主義と覇権主義の終焉を意味します。
通貨供給量は、金本位制だった1949年から70年までの約20年間に1.5倍にしかなりませんでしたが、1971年のニクソン・ショック以降のドル本位制による変動相場制の1971年から現在までの30年あまりの間に20倍になりました。
これに対して、資本の調達手段である株式は,1975年には GDPの2%だった株の売買高が、2002年にはGDPの106%にも達したにも関わらず、新規公開株のために売られた株は、株式取引額のわずか1%しかありません。つまり、20倍にも膨れ上がったドルのほとんどは、株式などの金融市場に流れ込んだのであり、金融市場と投資は、実体経済には流れてはいないのです。
これが経済格差をもたらし、絶望的な貧困層を生み出したのです。この経済格差の対極にいる貧困層の階級闘争が、アメリカのいうテロです。経済格差というカジノ資本主義の歪みが集中している地域に、為替の基準となる石油があるという背景が、今の世界情勢を混乱させているのです。
(4) 戦争と経済から考えるアメリカの経済戦略
第二次大戦後、ニクソン・ショックを契機に、変動相場制による金融市場経済を形成したアメリカは、ベルリンの壁の崩壊以降、自由経済と規制緩和、そして民営化をキーワードに、社会資本を経済的に支配する経済的植民地政策を進めました。
一方、アメリカは、株式や特許などの知的財産、そして不動産などのバブルを誘発し資金をウォール街に集中させました。そして、アジアからの輸入を一手に引き受け消費大国としての地位を固めるとともに、ドル本位制によるドルの還流システムでアジア各国に売った米国債を、軍需産業を中心とするアメリカの内需(公需)に振り向けることで実体経済を支えたのです。
1997年の通貨危機で露呈した金融市場経済の矛盾は、カジノ資本主義経済の限界を示す一方、エンロンの倒産で、社会資本を経済的に支配する経済植民地政策は頓挫しました。この状況で、ワスプ(WASP)とシオニストは、カジノ資本主義からの脱却を、アメリカの圧倒的な軍事力を活用することで乗り切ろうとしているのです。そして、その基本となる経済政策が保護貿易主義です。
彼等の政策は、石油エネルギーの力による支配と、軍需産業を基軸とする内需拡大政策。そして、アメリカの4倍強の人口をもつ中国に、消費大国の役割を押し付けて、アメリカの保護貿易主義による貿易黒字で、肥大した米国債務を解消するという政策転換なのです。
現状では、ユーロ高で、アメリカが担ってきた消費を欧州に負担させつつ、ドル安で、インフレを誘導し、輸出を増やす保護貿易主義を支えます。そして、アジア諸国の通貨を加重平均した「アジア通貨バスケット」の構築を認めつつ、軍事力でドルの暴落を抑え、アメリカの貿易黒字でアジア各国の米国債を相殺させるつもりでありましょう。
このように考えると、円高を阻止する日本の過激なドル買いも、「アジア通貨バスケット」に有利に参加するために円相場を維持するとしているのであれば、日本政府の行動も一理あります。しかし、現実には、政府と日銀が一体となって進める円介で得たドルは、米国債となり、イラクの軍事行動の資金となっています。
米財務省が2002年に発表した国際資本統計によると、日本が保有する米国債の残高は3月末時点で6398億ドル(約73兆円)となり、17カ月連続で増えています。アメリカがイラクに軍事侵攻したのは、2003年の3月ですから、戦争の準備を半年とすると軍事費の調達に日本が資金を提供していたと言われても仕方がありません。
ちなみに、米国債の保有国では、イギリスが1538億ドル、中国の1484億ドルと日本がいかに突出しているかがわかります。
(5) 時代が加速している21世紀
カジノ経済における覇権主義から、軍事力で石油を支配するという帝国主義に走るブッシュのアメリカと、石油本位制による為替市場を目指すEUは、政治・経済的には対立していますが、この両者が、軍事衝突とはならないのは、アメリカのカジノ資本主義に対して、この対極にいる絶対的な貧困層の階級闘争と、民族主義の衝突が同時に起きていて、これらが、一緒くたにテロと呼ばれて、反民主主義と定義されているからです。
本来、宗教の影響が少ない日本は、カジノ経済における覇権主義から、軍事力を背景とする帝国主義に走るブッシュのアメリカと、石油本位制による為替市場を目指すEUと、経済格差の対極にいる貧困層のイスラム教徒の階級闘争と、欧州の民族主義が複雑に絡み合っている現状を冷静に見られる位置にいます。
21世紀の現代は、原燃料、とりわけ石油本位制といわれる変動相場制の時代となりつつあります。だからアメリカは、カジノという経済ゲームを競う覇権主義から、石油資源を求める帝国主義に逆戻りしているのです。
帝国主義の衝突である第一次世界大戦。そして、帝国主義が飽和状態となり、保護貿易主義の衝突となったのが第二次世界大戦です。資本主義経済が、好景気と不景気を繰り返し、統制経済と自由経済を繰り返すのと同じように、戦争も繰り返されます。
テロだとか大義だとかは関係ないのです。経済が戦争を引き起こすのです。未来は歴史から学ばなければならず、歴史のスピードが加速している現代は、歴史学者の登場をまたず歴史を検証しなければなりません。
現代の政治は、他人の知識を披露し合うのではなく、現状をきちんと把握し、問題点と原因を特定して、それを解決することを政治とするべきであり、その基本は経済です。