だいぶ古いですが1981年の資料では、墜落による災害は死亡災害全体の約74%、休業4日以上の死傷災害全体では約35%だそうです。近年、太陽光パネルの設置工事が増えるとどうなるのでしょうか。現行の墜落に対する安全の基本は先行足場工法です。新築住宅工事ではこの足場先行工法は定着していますが、屋根の修繕や前記の太陽光パネルの設置では、この足場先行工法は有効でしょうか。
「木造家屋建築工事安全施工指針」では、「屋根勾配が6/10以上又は6/10以下であっても滑りやすい下地(合板下地等)上において屋根作業を行う場合は、屋根足場を設置することが望ましい」となっています。上記指針でいうと3尺勾配や4尺勾配の屋根では屋根足場なくてもいい事になります。この場合の安全対策は、屋根の傾斜面を滑落および転落しても、足場によって屋根からの墜落は防げると解釈するべきでしょう。
しかし、現実には足場をすり抜けて転落するケースは多いと聞いています。3尺勾配や4尺勾配の屋根を、指針では作業床と判断している事になりますが、傾斜角に関わらず、傾斜面は作業床と考えてはいけないはずです。それは、「滑落」という事象は傾斜面で起きるからであり、軒先を越えれば墜落に至るからで、軒先に足場があったとしても止まらず墜落している事実を直視するべきでしょう。
また、安全帯についても、墜落を想定した安全指針でありながら、胴ベルト型安全帯では、腹部圧迫による重大事故の事例が多くあり、「休業4日以上の死傷災害全体では約35%」の原因を作っています。
足場工法における墜落にたいする安全基準は、足場をアンカーとして、墜落時に、安全帯と結ばれているランヤードにより空中で止まるというものです。通常ランヤードは弛んだ状態で使用していますので、バランスを崩したりする滑落や転落時は必ず墜落します。また、墜落などの衝撃を器械が感知してロックをかけるリトラクター式墜落阻止器具も、衝撃を感知するまでの数メートルは必ず墜落します。つまり、現行の安全基準は墜落を想定していて、それを止めることに視点が置かれていているということです。
屋根上での作業の場合、「墜落」に至る前に、必ず「滑落」と「転落」という事象が起きているということをまず理解しなければなりません。その上で、「滑落」と「転落」という事象を防げるのかどうかということを考えるべきでしょう。
「墜落」に至る前の「滑落」と「転落」という事象を防止する安全システムを考えた場合、無足場工法をご提案したいと思います。これはロープブランコやぶら下がり工法と呼ばれていて、ビルの窓清掃などで見られる工法です。これは、上部に設置したロープで体を支えて作業するというもので、この技術でロープの材質や器具の改良は、クライミング技術の進歩とともに発達してきました。
窓清掃作業ではいわゆる垂直面の作業ですが、角度を3尺勾配や4尺勾配に変えれば、この工法による安全システムは有効です。ロープと把持した状態からは落ちないということを否定する人はいませんでしょう。屋根上等の傾斜面での作業において、無足場工法は、墜落という事故にいたる滑落転落という事象に対処できるシステムです。
この無足場工法を木造家屋等の低層住宅に適用するにあたり2つ問題点があります。
① ロープの基点となるアンカーの設置はどうするのか。(無足場工法の基本はアンカーの設置ですから)
② 垂直面での作業では、作業員の姿勢は固定となりますが、屋根上での作業の場合、作業性を確保するために姿勢に自由度が求められます。
結論として、そこで①の問題については「命綱のアンカーシステム」②の問題については「ビレーループ式胴ベルト型安全帯」を考案して、木造低層住宅における無足場工法を考えて見ました。