民主党の金融アセスメント法案に対する批判と提言

一 地域金融の円滑化を妨げている原因は?
二 銀行のお客様は、預金者ではなく貸付先です
三 中小企業の範囲の認識が、現状認識の間違いの原因
四 担保主義と個人保証の現状
五 内需を支える金融システムの構築
六 事業のもとでとなる資本の調達手段の提言
七 消費税から売上税へ
八 今、立法府がすべきことは、法律の廃案です 

一 地域金融の円滑化を妨げている原因は?
 
 民主党の地域金融の円滑化に関する法律案の目的は、銀行法にある公共性は、「地域の発展や、中小企業者の事業活動の活性化や、利用者の利便性のために貢献する」ためのものであり、お金を貸す金融機関側の都合によって、いわゆる『貸し渋り問題』が顕在化したり、杜撰な不動産投資によってバブルが引き起こされたりと、金融機関が社会的責任を放棄したかのような現実が存在している現状に歯止めをかけるものとなっています。この法案の目的は以下のとおりです。
 
@ 地域の発展に貢献しているかどうか
A 中小企業者の事業活動の活性化に貢献しているかどうか
B 利用者の利便性を高める努力をしているかどうか
 
 そして、それを解決する手段としての手段は、「まず、金融機関に対して、その業務の特性が利用者によく分かるような情報の開示を義務付け、第三者機関がその情報に基づいて『金融機関の業務の公共性』の検証を行うことによって、金融機関が業務の公共性をともなう経営の健全化(真の金融健全化)を実現し、国民経済の健全な発展に資するよう促すのである。」としています。

 しかし、金融機関の果すべき役割と、現状の経済の問題点の相違を解決しようとする方向性は同意いたしますが、この状況をもたらした原因を追求していないのではないでしょうか。問題解決の議論は、現状把握からはじまり、その原因を特定することから始まります。現状把握までできて、どうして原因を特定しないのでしょうか。なぜ、銀行は、中小企業に貸し渋るのか、地域経済及び国民経済の健全な発展とは何かを特定しなければ、問題解決はありえません。法律は、理念を促すものではありません。法は、行動や判断の基準であります。
 

二 銀行のお客様は、預金者ではなく貸付先です
 
 銀行法の第1章の第1条で、銀行の目的を以下のように書いてあります。

 「この法律は、銀行の業務の公共性にかんがみ、信用を維持し、預金者等の保護を確保するとともに金融の円滑を図るため、銀行の業務の健全かつ適切な運営を期し、もつて国民経済の健全な発展に資することを目的とする。」

 そもそも金融機関とは、資金の貸借取引における余剰金を利潤とするものでしょう。そして、その業務形態と次のように定めてあります。

一  預金又は定期積金の受入れと資金の貸付け又は手形の割引とを併せ  行うこと。
二  為替取引を行うこと。

 銀行は、預金者のことをお客としていますが、「客」とは、経済上は、金を払って、物品やサービスを求める人であるから、預金者は、銀行から利息という金を受取るのですから「客」の定義にはあてはまりません。銀行は、資金を貸し付け、その利息を利益として受領するのだから、「客」の定義するものは、貸付先ではないでしょうか。資本主義の概念でいえば、預金者は、資本家に位置するものでしょう。

 日本の銀行法が、預金という公共性をかんがみて、預金者の保護を第一に置くのは、異論はありませんが、資金を貸し付けて、その利息を利潤とする銀行は、貸付にリスクを負っていないのはおかしい。資金の貸借取引における余剰金を利潤とすることを生業とする銀行が、質権の設定で、貸付のリスクをとらないのはおかしい。

 銀行は、資金の貸借取引における余剰金を利潤とするのであれば、その利潤を求めるときに、リスクを持つべきです。資本主義経済において、リスクを持たない経済活動はありえないからです。あるとすれば、資本を国家が管理する社会主義経済国家となります。
 

三 中小企業の範囲の認識が、現状認識の間違いの原因
 
 民主党の金融アセスメント法案である、「地域金融の円滑化に関する法律案」では、地域金融の現状の現状として、「わが国では民間企業の99%以上を中小企業が占めている」として、日本経済再生のためには、中小企業の活性化が重要であるとしています。
 
 しかし、中小企業法において、「中小企業」とは、製造業では、資本金1億円以下または従業員300人以下会社、及び従業員300人以下の個人企業を指す。卸売業の場合には、資本金3,000万円以下または従業員100人以下となっていて、さらに小売業及びサービス業の場合には、資本金1,000万円以下または従業員50人以下の企業であったのが、平成11年に、製造業では、資本金3億円以下、卸売業は、資本金1億円以下、小売業及びサービス業の場合には、資本金5,000万円以下に引き上げられていて、法律において中小企業者の範囲が拡大されています。
 
 中小企業の範囲が拡大されるということは、零細企業への政策配慮が薄くなることを意味しているのではないでしょうか。中小企業と零細企業の区分をせず、99%の中小企業が地域経済を支えているという現状認識では、最初から、ポイントが外れているといわざるを得ません。
 
四 担保主義と個人保証の現状
 
 また、地域金融の円滑化のために様々な措置として、中小企業向け融資枠を設定や、特別信用保証制度を拡大したにもかかわらず、法律で規制していないから、以前として貸し渋りや、貸し剥がしが横行していると指摘していますが、それでは、法律でその制度を守れば、銀行は、中小企業や零細企業に金を貸し出すでしょうか。政府が銀行に代わって信用創造しているという特別信用保証制度を拡大すれば、貸し出し額は増えるでしょうか。
 
 いえ、増えないでしょう。なぜなら、日本の貸し出し基準は、担保主義となっているからです。土地価格の下落で担保価値がない状態で、どうして銀行は金を貸し出すでしょうか。といって、土地価格を引き上げたとして、資本は土地担保のある人ばかりに集まり、事業のもとでとなる資本の形成には寄与しないでしょう。
 
 また、政府が、信用創造するという特別信用保証制度は、返済が滞ったときに、債務者にかわり、信用保証協会が債務を弁済する代位弁済というシステムで、貸し出し先が変わるだけです。大企業や一部の中小企業の経営者は、有限責任であるのに、中小・零細企業は、個人保証から逃げられず無限責任ではないですか。株式会社や有限会社という資本主義のルールは、日本社会にはないのです。この現状認識こそが重要ではないでしょうか。
 
 本来、金を貸し出すことの対価として金利を得る銀行が、貸し出すという行為のリスクを全く取らないで、金利だけを要求していることが間違っているのです。商売をしていて、リスクのない商売は、市場経済には存在しません。この点を理解しないで、銀行に、健全さを求めたり不公正な取引慣行を批判しても、意味がありません。規制をするのではなく、資本の調達手段としての金融の基本に立ち返るべきでありましょう。
 
五 内需を支える金融システムの構築
 
 いまの銀行は、キャピタルゲインを求めるばかりで、貸出金利を求める先は、サラ金などの街金融ばかりであり、そのリスクを取ろうとはしません。ただ、これは、世界の中のカジノ経済で、生き残りをかける民間銀行にとっては、当然の行為である側面も認めなけばなりません。アメリカを中心とするカジノ経済に生きる日本は、カジノ経済で生き残る金融機関を持つ必要性もあるのです。
 
 しかし、日本国内の経済を、カジノ経済の原理で考えてしまえば、国内経済は消費するだけの経済となり、産業の空洞化はさらに進むでしょう。また、この経済は、経済格差を前提とする経済であり、日本国内でも絶望的な貧困層が生まれるだけです。今は、カジノ経済の名をかりたグローバル経済の本質を見極めつつ、日本国経済を考えなければなりません。
 
 いまの経済状況の現状認識をせずに、規制しか考えれないようでは、どうしようもありません。規制を考える前に、制度やシステムに問題の原因を求めなければなりません。現状認識と、問題の原因は教科書には書いてはいないのです。まず、勉強するべきは、問題解決のプロセスではないでしょうか。
 
 私は、キャピタルゲインを求める金融機関と、事業のもとでとなる資本の調達手段としての間接・直接金融機関とを分けて運用することを提案します。カジノ経済であるグローバル経済の金融機関と、日本国内経済の内需を支える金融システムの金融機関とを分けて運用するのです。
 
 そこで以下に、日本国内経済の金融システムとして、事業のもとでとなる資本の調達手段としての金融制度の提言をいたします。
 

六 事業のもとでとなる資本の調達手段の提言
 
 事業のもとでとなる金の内訳は、固定資本を調達する金、つまり設備投資と、流動資本を調達する金、つまり運転資金に大別できるでしょう。従来の融資は、この設備投資資金と運転資金を一括で貸し出していて、そのあとの金融機関と企業の関係は、返済がされているかされていないかでありました。 
 
 この構図では、企業は、貸し出し先の貸し倒れのリスクに対しては、なんら無策であり、彼らの仕事は、返済が滞ったあとの、債務の回収が主業務となります。だから、担保や保証人が必要なのであり、銀行は、債権の掃除屋にしかすぎないのです。 
 
 カジノである金融市場に参入する日本の銀行に対して、事業のもとでとなる資本の調達機能を求めるのは無理があります。といって、企業の再生だけに政策を集中すれば、起業による経済の活力は生まれようもなく、中小零細企業の保護政策は、公需に関わる建設・土木の産業を対象となるばかりでしょう。 
 
 そこで、事業のもとでとなる資本の調達機能としての金融機関を国営銀行に求め、その、貸し倒れのリスクを回避するような金融機関の企業行動を提案したいのです。 
 
 第一に、設備投資に関しては、ファイナンスリースを導入し、その所有を金融機関がもつということです。貸し倒れの時には、その設備を、再リースしたり、売却したりして債券を回収することで、リスクの軽減を図ります。 
 
 第二は、運転資金は、毎月の貸し出しとすることです。決済時に、決めた運転資金を利用することで、その企業の経営内容を把握することで、貸し倒れのリスクの傷を深くしないようにします。 
 
 貸し出し金融機関は国営とし、金融機関と企業との間を取り持つ専任者をおきます。国営銀行の貸し出し金利に、運用管理の専任者の手数料をを載せた返済額を、企業は国営銀行に支払うことになります。そして、国営銀行は、運用管理専任者の手数料を支払います。 
 
 運用専任者は、実績に応じて、貸し出し限度額を増やしたり減らしたりすることとします。貸し倒れのときは、不良債権の損失は、国営銀行がもちますが、その損失の額に見合った分を貸し出し限度額から差し引きます。 
 
 また、一件あたりの貸し出し金額の上限を決めます。上限を、5000万ぐらいにして、その以上の貸出先は、銀行に任せます。つまり、銀行の相手にしない中小零細企業を対象にする制度とします。そして、貸し出しの総額の上限を決めて、運用管理の専任者の業務量を制限して、運用管理者を管理するようにします。 
 
 この運用管理者は、従来の金融機関の営業マンを歩合制にすると考えても結構です。
 

七 消費税から売上税へ
 
 日本の法人は、税法上の特典から、法人所得税を払わない企業や、個人経営者が多いのが現状です。税の負担は公平でない現実が日本にあります。国は、中小や零細企業に手厚く保護をする現行税制を認めながら、源泉徴収での税収入(雇用の拡大)を求め、資本の寡占化を国策としてきました。中小や零細企業は、税制の保護を受ける一方で、自分達の地位が国策で締め上げられていたことに、いまだに気がつきません。中小企業の定義も大幅に引き上げられ、日本の経済の活力である、零細企業は、国の経済政策にはいってはいません。

 地域金融の円滑化に関する法律案が求める、地域の発展と中小企業者の事業活動の活性化は、日本経済の再生のキーポイントだと思いますが、中小や零細企業は、いままで恩得を受けてきた税の優遇制度という既得権益を捨てなければ、活路は見出せません。

 私は、法人所得税を売上税にする案を提案します。消費一般に負担を求める間接税を基本に、その負担を消費者に求めるのではなく、事業者に求めるという考え方です。実際には、消費税も、事業者が預り金として、消費者から徴収して、国庫に収めていますから、外税を内税に変えるように企業に指導すればすぐにできます。形的に、消費税はなくなりますから、売上税にすれば、消費マインドの改善を期待できます。

 消費税を売上税にすることは、商品の価格に、間接税が入ることになりますが、企業は、価格に対する企業努力は怠りません。その努力が企業の活力となります。しかし、消費者は、所得の中からの支出で、消費税の支出は、消費マインドを冷え込ますものでしかありません。消費税か、売上税かの違いは、外税と内税の違いではありますが、消費行動における影響は、正反対の結果となるでしょう。

 税制の基本は、企業であれば売上、個人であれば所得と、シンプルな税体系にするべきです。日本の税制は、既得権益で絡まった糸のように複雑になっています。シンプルな税体系で、既得権益は排除されるでしょう。

 そして、現行の消費税での免税事業者の考えは削除するべきです。たとえ、100円でも売上を上げたならば、売上税を納めるとすることで、中小や零細企業の日本経済の中での地位を求めるべきです。国は、安定した税収を求め、源泉徴収による税収を求めた結果、中小や零細企業は、経済政策から外れたことを理解し、中小や零細企業の企業活動が、日本の経済の底力となり、売上税が、日本の税収に占める割合が高くなれば、中小や零細企業の日本経済の中の地位を引き上げることを求めるべきです。
 

八 今、立法府がすべきことは、法律の廃案です
 
 自民党政治は、既得権益層を立法で守り、その見返りに票田を得ていました。その立法は、官僚がつくり、政治家は、その法案を通す為の議席に奔走します。結果、日本は、規制だらけの経済構造になりました。

 いま、規制緩和が叫ばれているのは、既得権益層の解体を意味しています。とすれば、構造改革論者は、法案をつくるのではなく、既得権益層を守る法律を廃案することに、力を傾けるべきではないでしょうか。

 民主党は、小泉政権に対抗して、法案を武器にしているようですが、もう少し視点を変えて、いま何をするべきかを考えてほしいと思います。