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2005/01/26()
事実を捻じ曲げるプロジェクトXの番組改変問題
 昨日、「魔の山大遭難 決死の救出劇」というドキュメンタリー番組を見た。内容は、富山県山岳警備隊の活躍を賛美する内容だ。

 昭和38年、北アルプス薬師岳を登山中の愛知大学山岳部13人が全員死亡するという事件を契機に、富山県は山岳警備隊を発足。県内の各警察署から集められた隊員が、黒部ダム建設に従事した立山町芦峅寺の男たちに山岳技術を学ぶ。

昭和44年正月、猛烈な寒波とドカ雪の剣岳で15パーティー81人という史上空前の大量遭難が発生。山岳警備隊は、山頂付近にいた金沢大学山岳部17人の救助するために、芦峅寺の男たちを山岳ガイドに救助に向かうが、ガイドの一人が雪屁を踏み抜き滑落。救助に成功するも、二重遭難の危険から撤退を主張するガイドに、山岳警備隊は救助の続行を主張してガイド抜きで救助を続行。山頂にいた遭難者と合流し救助したという内容だった。

 番組では、合流後、後続隊の人海戦術によるルート工作で、安全に下山したことを映像を流し付け加えていたが、番組は、ガイド抜きで遭難者と合流したことで遭難者が救われたと、山岳警備隊の賛辞に終始している。

 しかし、後続隊の存在を知りながら遭難者との合流を目的とする救助ならば、食料などの運搬が主目的となるが、この救助隊の編成では、とても17人分の食料を持っているとは考えられない。また、安全に下山させることが目的であれば、山岳ガイドは必要不可欠であり、当時の山岳警備隊のメンバーではこれも意味をなさない。

 結果的に、麓に集まった大勢の山仲間によるルート工作で安全に下山できたのであり、他のパーティーで十数人も遭難死が出たのが現実である。総合的に考えると、二重遭難を回避する山岳ガイドの判断は正解であり、これを無視して山頂に向かった山岳警備隊は、むしろ17人の遭難者と合流することで二重遭難から逃れられたのではないのだろうか。

 番組の最後には、山岳警備隊のヘリコプターによる救助や、ロープを使った救助の映像が流れていたが、むしろ、この事件を契機に、人海戦術による救助から機動力を使った救助に方針転嫁したのではないだろうか。

 隊員たちの訓練風景の映像でも、現在のフリークライミング技術による岩登りを、クライミングシューズではなく、登山靴をつかって困難さを強調したりいわゆるヤラセが目に付いた。折りしもNHKの番組改変問題が起きているが、ドキュメンタリー番組であるのに、製作者の意図的な行為で、出演している人の意見や主張が捻じ曲げられているという問題と、永田町とNHKのズブズブの関係という問題は別問題だ。

 この「魔の山大遭難 決死の救出劇」は2002年11月19日放送されたものであり、昨日のはアンコール放送だそうだが、あのような内容の放送を繰り返し放送させていいのだろうか。昭和44年正月の剣岳大量遭難で得た教訓が捻じ曲げられるのは、日本の登山の歴史に泥を塗る行為である。
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切って出し日記 Ver2.3 CGI-PLANT