法務省の削除要求のルール化と「自由」と「責任」について |
- 日時: 2004/08/11 20:46
- 名前: hashimoto
- インターネット上に個人の顔写真や氏名が載ったり、中傷する記述が出たりしたとき、被害を受けた個人に代わって、法務省が接続業者(プロバイダー)に直接、削除要請できる手続きが今秋からルール化されるという。
この接続業者というのは、ウェブホスティングを行う者や電子掲示板の管理者等も含まれている。つまり、「論談」も、この勧告の対象というわけだ
インターネットの掲示板では、匿名を使って個人情報や他人の権利利益を侵害するような情報が流通されているのも事実だ。しかし、行政や企業の内部告発などに、ネット掲示板が利用されているのも事実である。
しかし、法務省は、4月にイラクで人質に取られた日本人の住所がネット上に流れたときや、6月に長崎・佐世保の女児死亡事件に関連して加害者とみられる児童らの個人名や写真が掲載されたときに法務省が削除要請している。今回の法改正でも法的な強制力はなく、この法改正の目的は別にある。
今回の法改正のポイントは、被害者本人による削除要請に対応するだけでなく、著作権等を侵害されたとする者が、著作権等の権利の保護を主たる目的とする「信頼性確認団体」を経由して申し出れるという点だ。
この「信頼性確認団体」というのは、日本映画製作者連盟、日本レコード協会、コンピュータソフトウェア著作権協会の映像等に係わる著作権等の権利団体を指す。つまり、ネット上での著作権の侵害を対象にする法改正であるということだ。
しかし、この著作権の保護と、内部告発などの表現の自由を一緒くたにするのは危険だ。ネット上の情報に法務省が介入するのは「表現の自由」の侵害である。一方、メディア権力は、この「表現の自由」を既得権益としていて、ネット上での情報に対しては規制を求める立場にある。
行政権力とメディア権力の息のかかったインターネット協会が、一般国民の情報を発信する自由に規制をかけるのを、国民は看過してはならない。個人のプライバシーの侵害や誹謗中傷と、著作権保護の問題は明確に分けるべきであり、また、前者の場合には、プロバイダーやネット掲示板の管理責任を定めるべきであろう。
「論談」もそうであるが、相手側からの削除要求がきたときに投稿者の判断に従っているが、その投稿が、誹謗中傷で違法行為である場合の責任は、投稿者だけではなく掲示板の管理者にもその責任があるべきである。なぜなら、管理責任を伴わない管理者など存在しないからである。
新聞の投稿と違い、ネット掲示板での投稿は、書き込んだ本人に著作権があり、その責任は投稿者本人にある。しかし、ネット掲示板を介して情報を流布している場合には、そこでの権利侵害に対しては、掲示板管理者にも責任があるはずである。
私は、この法的根拠を、民法198条の妨害排除請求権に求めている。
(1) 妨害排除請求権 例えば、自分の所有する家の隣で自宅新築工事を行っている結果、その振動で自分の家が壊れそうな場合に、工事が原因で自分の所有物である家が壊れてしまった場合に、業者に違法行為がなくとも、その損害賠償を請求できるというものです。
(2) 妨害排除請求権の要件 物件的請求権は、権利の円満な実現が妨げられただけで当然に発生する。不法行為による損害賠償請求とは違い、相手の故意・過失は不要である。
この件は、「YAHOO掲示板訴訟」として裁判で争ったが、ヤフーの弁護士は「原告には、被告に対する妨害排除権ないし妨害排除請求権なる名のつく権利が認められることはない」とし、裁判官も、ネット掲示板と妨害排除請求権の関連を議題にすることもなかった。
YAHOO掲示板訴訟 http://www.link-21.com/yahoo/index.html
しかし、ネット掲示板の管理者に「責任」がないのであれば管理者の意味はないし、無責任を既得権益とすれば、霞ヶ関の宦官官僚と同じだ。ネット掲示板の管理者は、妨害排除請求権によって責任を負うべきである。
「自由」とは、国が与えた基本的人権の行使をいうのであり、他人の基本的人権を侵害した場合には「責任」を取らなければならない。「責任」のない「自由」などはありえない。日本は、アメリカのならず者の「自由」と「民主主義」を受け入れてはいけないのである。
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